董氏奇穴実用手冊

邱雅昌先生との出会い

董氏奇穴実用手冊
董氏奇穴実用手冊

楊維傑氏の治療院にて見学をさせて頂いた当時、同様に楊維傑氏のもとへよく勉強に来られていた方がいた。2011年に「董氏奇穴実用手冊」を編著した邱雅昌先生である。沢山の見学者の中でも、当時楊維傑氏に特別に師事していたようで、そのため定期的来院していたのでよく話をさせて頂いた思い出がある。邱先生は元々は核融合反応などの分野を専攻していた方で博士号の学位もお持ちの物理畑の方であるが、後に中医師に転身したという変わった経歴の持ち主である。ちょうどその頃に中医師の卒業論文を書いていたようでとても忙しそうにしていた。私が帰国した後も何度か連絡を取り合いましたが、そのうち忙しさで少しずつ連絡疎かになり、それからあっという間に15年以上の月日が流れた。ところが3年ほど前にたまたま台湾へ帰省した時のことである。一週間ほど滞在してその日帰国のためタクシーで空港に向かう途中、うっかり鍼灸の本を一冊買い忘れたのを思い出し、フライトの時間までにはまだ少し余裕があったので、急遽公館にある鍼灸の専門書店に立ち寄ることにした。その店内でしばらく見ていると赤い表紙の本が目に入った。見ると「董氏奇穴実用手冊」著者が邱先生だと書いてあり、驚きと懐かしさで即購入しようと手に取って見ていたら、書店のおばちゃんがいきなり「その本は絶対に買わないとダメよ!」って言うので、「邱先生とはちょっとした知り合いなので勿論買うつもりだよ」って答えると、「え?それは奇遇ね。邱先生ならほら、そこに座っているじゃない」という。ふと振り返ると本当に本人がそこに座っていた。あまりの偶然に二人とも懐かしむ暇もなくただ驚くばかりであったが、飛行機に間に合わなくなるので残念ながら短い会話だけしてお別れした。世の中「縁」とは本当に不思議なものだなと帰りの機内で感慨を覚えた。

 

董氏奇穴を学ぶ良書

董氏奇穴の書籍は楊維傑氏をはじめ、何人かの弟子によって出版されているが、どの書籍も奇穴の位置を示す図が解りにくいのが多い。その点邱先生の書かれた「董氏奇穴実用手冊」は、それぞれの奇穴の位置が実際に針を刺した写真で表現されていて、刺入方向等も参考になるのでとても解りやすい。また他の董氏奇穴の本のほとんどは、この疾患にはこの奇穴といった経穴辞典的な書き方なのに対し、この本では邱先生の治験例が書かれているだけでなく、董氏奇穴に対する検証や批判、また自身の失敗談までもがコラム的に書かれているのが興味深い。なかなか先生というのは自分の失敗談は話さないので、そういった姿勢からも邱先生の人柄が伺える。「董氏奇穴実用手冊」は董氏奇穴を学ぶ良書であり、特に初学者には学びやすい。せっかくご縁もあったので何とか日本語に訳そうと半分くらいまでは頑張ったが仕事等で忙しくなかなか進まない。折を見てその内に発表していきたいと思っているが、翻訳をしていると実際のところはどうなっているんだろうと疑問に思うことも沢山ある。是非一度、邱先生を訪ねてみて実際にその臨床を見学させてもらえないかと考えている。