董氏奇穴との出会い②

keii 井村宏次先生の言う経絡治療の方法論とはいったいどういう意味合いなのか、多数の著作を持つ楊維傑氏のどの書籍を読んでそう思ったのかは今となっては不明だが、恐らくは代表作である「針灸経緯」第三章「経絡療法の多重応用」ー ①循経取穴法 ②接経取穴法 ③通経取穴法の項を読んだのではないかと推測される。大まかに説明するとー

  1. 循経取穴法ー a.本経取穴(局部取穴・遠隔取穴) b.異経取穴(表裏関係の経絡取穴)
  2. 接経取穴法ー 経絡流注の接続関係の前後を利用した取穴。(主に郄穴・絡穴を用いる)
  3. 通経取穴法ー 別名を六経相通取穴法。(同系経絡取穴)  同系経絡の対側対応点に取穴する。(中渚と臨泣、束骨と後谿等)「巨刺・動気針法」を活用する。四肢疾患の治療に向く。

簡単にまとめると、経絡流注を中心とした同経・表裏・同系経絡の取穴において、「上病下取」「下病上取」「右病左取」「左病右取」を応用し、「動気針法」を活用しろと言っているのである。また「四肢の治療に向く」という点からも疼痛など運動器疾患に応用しやすいということであり、つまり楊維傑氏のいう「経絡療法」と、難経的取穴を本治法として捉えている日本のいう「経絡治療」とは、まったく趣旨が違う話だということがよく分かる。

では「経絡療法」と「経絡治療」とは何が違うのかという話になって来るのだが、厳密な解釈は大先生方にお任せするとして、そもそも楊維傑氏が治療の中心においている董氏奇穴療法とは正経に属していない奇穴を使っているのであり、一致している箇所もあればその名称も主治もまったく違うのがほとんどである。特に治療に補瀉を言わず、  代わりとして「倒馬針法」を重視しているのが特徴である。その点も経絡を補瀉するのを治療の根幹にしている経絡治療とは全く意を異にしているのである。

因みに楊維傑氏が尊敬する日本の鍼灸師として「本間祥白」と「澤田健」をよく挙げている。自著や講義中によく名前が出てくるので、興味本位に一度「日本には針を浅く刺して治療する経絡治療というのがあるが知っていますか?」と質問してみたところ、「あれは経筋治療だ」と言っていたのが印象的だった。