楊維傑氏の臨床は確かに興味深いものではあったが、各患者がどういう状態にあって、何故その取穴をするのかといった理由や治療意義も教えてもらえず、先生が診察部屋から出てきてベッドに寝ている患者さんに数分間の治療を見学するために、部屋の前にある椅子に一日中座って待つ日々は甚だ退屈なものであった。仕方がないので朝から晩まで「鍼灸経緯」を何度も読む他なかったが、しかしさすがに台湾で多くの著作を持っておられる先生だけあって、私以外にもよく学生らしき方が見学に来ることがあった。後に詳しく紹介しようと思うが「董氏奇穴実用手冊」を近年出版された邱雅昌先生もこの頃よく実習に来られていて、よく色々とお話をさせて頂いた。
診察室の前の椅子でそんな見学者達と色々談話していると、よく「郭嘯天(かくしゃくてん)」という名の先生を度々耳にすることがあった。どうやら楊維傑先生とは兄弟弟子のご関係のようで、その郭嘯天先生のお弟子さんがよく見聞に来らしていた。そして皆一様に「郭嘯天先生はすごい」と口を合わせたかのように言うので大変興味を惹かれたが、楊維傑先生の手前もあってその先生を紹介してくれないかと頼むことは結局できなかった。そして最近になって郭嘯天先生が数年前に惜しくも他界されたと聞き、まことに当時の自分の行動力の無さに悔いるばかりである。そんなの評判の中でも一番印象に残った話に、ある時坐骨神経の患者さんに対し、痛む箇所に針では無く、鐘をキーンと鳴らしたままその鐘を患部付近になぞっただけで痛みが止まったというお話があり、曰く「金性の坐骨神経痛にはこの金物の波動がいい」という理由との事。楊維傑先生のところでは痛そうな針ばかりを見る中、そんな臨床もあるのかと驚いたのと同時に、増々その郭嘯天先生に一度会ってみたいという思いが募った。
